TAMARI-玉理論 · Journal · 2026-06-23
キューを立てると曲がって戻る ── v6 でスワーブとピボットを出した
タグ: ビリヤード · スワーブ · ピボット · デフレクション · TAMARI-玉理論
v5 でデフレクション (squirt) を出して、 「横を撞くと手玉が狙い線から逃げる」 のは見えるようになった。 でも実戦でそこまで逃げを感じないのは、 もう一個の現象が逆向きに効いてるから。 それが スワーブ (swerve) 。 今回の v6 はそこ。
キューは水平じゃない
そもそも、 実戦で完全に水平にキューを出すことってほぼ無いんだよね。 手球の近くにレールがあったり、 自然な構えで少しだけキューは立ってる。 この「少し立ってる」 が効く。
立てて横を撞くと、 手玉は走り出しに squirt で逃げて、 そのあとカーブして戻ってくる 。 これがスワーブ。 マッセを思いっきり弱くしたやつ、 と思ってくれればいい。 戻る向きは捻った側だから、 squirt の逃げを打ち消す方向になる。
→ スワーブとピボット (swerve) v6 を試す
v6 で出したもの
画面の見方は v5 から少し変えた。
- 黄色い点線 = 狙い線 (真っ直ぐ的玉へ)
- 青い実線 = 実際に手玉が出た線。 今回は 曲線 になる (逃げて → 戻る)
- 線の先の玉 = 手玉が的玉の面に実際に届く点。 狙い線と一致すれば緑、 ずれてれば桃色
下の数値バーには 4 つ並べた。
- ① デフレクション (squirt) ── 逃げる量。 速度非依存
- ② スワーブ戻り (swerve) ── 戻る量。 速度依存
- 正味のズレ (①−②) ── 差し引き。 0 なら狙い通り
- ピボット長 ── ①と②がちょうど相殺する飛距離
「キュー立て角」 のスライダーを足したから、 これを 0 から上げていくと、 逃げてた青い線がだんだん戻ってきて、 ある角度で先の玉が緑になる (相殺) のが見える。
squirt と swerve は「速度」 で別れる
ここが v5 から続く一番の肝。
- squirt = 速度でほぼ変わらない (撞点とシャフトで決まる)
- swerve = 速度で変わる。 遅いほど大きい (ざっくり 1/v² で効く)
なんで swerve が遅いほど効くかというと、 曲がる時間が長くなるから。 手玉が滑ってる間にラシャの摩擦で横に押されて曲がるんだけど、 遅い球は同じ距離を進むのに時間がかかる。 時間がかかれば横にズレる量も増える。 だから遅い球ほどよく曲がる。
この差があるから、 同じ撞点でも速度を変えると正味のズレが変わる 。 速い球は squirt が勝って逃げ残る、 遅い球は swerve が勝って戻りすぎる、 みたいなことが起きる。 デモで初速を動かすと、 正味のズレの符号がひっくり返るのが見えるはず。 A級が「この球は速度をこのくらいで」 って速度まで込みで狙いを決めてるのは、 体でこれを補正してるってこと。
ピボット長 ── 横を撞いても狙い通り出せる支点
squirt (逃げ) と swerve (戻り) がちょうど相殺する飛距離がある。 これが ピボット長 。
ビリヤードには「バックハンドイングリッシュ (BHE)」 っていう撞き方があって、 グリップ側のある一点 (ピボットポイント) を支点にしてキューを振ると、 横を撞いても手玉が狙い通りに出る、 っていうテクニック。 あれの物理的な根拠がこのピボット長。 支点をピボット長に合わせると、 squirt で逃げる分をスワーブの戻りがちょうど消してくれる。
おもしろいのは、 ピボット長は横撞点の量にほとんど依らない こと。 デモで横撞点を変えても、 ピボット長の数字がほぼ動かないのが分かると思う。 だから「自分のキューのピボットポイントはここ」 って一回覚えれば、 捻り量に関係なく使える。 これがシャフトの個性として語られる理由。
デモで試してほしい 3 つ
1 個目: 立て角 0 → 上げていく
横撞点を入れて、 立て角を 0 から 20° くらいまで上げる。 逃げてた青い線が戻ってきて、 先の玉が桃 → 緑 → また桃 (戻りすぎ) と変わるのを見てほしい。 緑のところが相殺。
2 個目: 速度を振って正味のズレの符号を反転
立て角を 10° くらいに固定して、 初速を 0.5 ↔ 5.0。 遅いと戻りすぎ (swerve 勝ち)、 速いと逃げ残り (squirt 勝ち)。 正味のズレの符号がひっくり返る。
3 個目: ピボット長は横撞点に依らない
立て角と速度を固定して、 横撞点だけ動かす。 ピボット長の数字がほぼ変わらないのを確認してほしい。 これがシャフトの「ピボットポイント」。
まだ近似な部分
- スワーブは「滑っている間ずっと一定の横加速度」 という簡略化。 実際は転がりに移ると曲がりは止まるので、 本当はもう少し早く直進に戻る。 ここは係数を実測の曲がりに合わせて較正してる。
- 衝突後の的玉側 (スロウとの統合エイミング) はまだ。 「逃げる・戻る・寄る」 の 3 つを全部重ねた総合エイミングが次の v7。
- マッセ・ジャンプ (立て角を極端にした世界) は別カテゴリで、 このシリーズには入れない。
squirt が速度非依存、 swerve が速度依存、 その差し引きがピボット長 ── この 3 つが v6 で目で見える形になった。 「横を撞くと逃げる」 と「立てると戻る」 を別々に分かってると、 自分のキューでどう狙いを補正すればいいかが整理できると思う。
参考にしてる文献
- Alciatore, D. (Dr. Dave) のスワーブ / squirt / ピボット長の技術資料
- Shepard, R. Amateur Physics for the Amateur Pool Player
- Marlow, W. C. The Physics of Pocket Billiards (1994)
→ スワーブとピボット (swerve) v6 を試す