カスハラ対策の義務化に備える ─ 記録の残し方とホームページでの示し方
記録が無いと「言った・言わない」になります。その場で残す6つの項目、続く記録の形、相談窓口の作り方、そしてホームページで方針を示すときの、きつくなりすぎない書き方をまとめました。

「あのとき何を言われたか、もう正確には思い出せません」。カスタマーハラスメント(カスハラ)の相談を受けた会社から、いちばん多く聞く言葉です。
2026 年 10 月から、全企業にカスハラ対策が義務づけられます。相談を受けて対応した記録を残す体制が必要になります。
この記事では制度の解説はしません。現場で「何をどう残しておくと後から困らないか」と、「ホームページで会社の方針をどう示すか」の 2 つだけを書きます。
カスハラ対策の義務化 ─ まず押さえておくこと
2026 年 10 月から全企業にカスハラ対策が義務づけられ、相談を受けて対応した記録を残す体制が必要になります。
この記事で書くこと・書かないこと
制度の中身は、ここでは扱いません。書く範囲をはっきりさせておきます。
- 書くこと: 現場で何をどう記録しておくと、後から困らないか
- 書くこと: ホームページで会社の方針をどう示すか
- 書かないこと: 条文の中身、罰則、どこからが違法かの線引き
制度そのものの内容は、厚生労働省が公開している資料で最新の内容を確認してください。
「どこからがカスハラか」は現場で決まる
同じ言葉でも、場面が違えば受け取り方は変わります。長い時間くり返されたのか、一度きりだったのかでも変わります。
だからこそ、線引きを先に決めようとするより、起きたことをそのまま残しておく ほうが現実的です。判断は後からでもできますが、記録は後からは作れません。
対策が「紙の上」で終わりやすい理由
規程を作って掲示したところで止まっている会社は、少なくありません。理由は単純で、実際に何かあったときに書く場所が決まっていないからです。
- 規程はあるが、記録する用紙が決まっていない
- 用紙はあるが、どこに保管するか決まっていない
- 保管はしているが、誰も見返していない
この 3 つのどれかに心当たりがあるなら、先に手を付けるのは規程ではなく記録のほうです。
記録が無いと「言った・言わない」になる
記録が無いと、後から事実を確かめる手立てが無くなり、当事者どうしの言い分の争いになります。
記憶は翌日には薄れる
強い言葉を受けた直後は、誰でもはっきり覚えています。ところが数日たつと、順番や表現があいまいになります。
「たしか 30 分くらい」「だいたい夕方」という記憶は、後から確認の役には立ちません。あいまいなまま残った記録は、無いのとあまり変わりません。

困るのは、実は対応した側
現場では上司が間に入って収めていた。それでも記録が無ければ、会社として何もしなかったように見えてしまいます。
- 従業員からは「相談したのに動いてくれなかった」と見える
- 会社としては、対応した事実を示す根拠が出せない
- 同じ相手から二度目があったとき、一度目と繋がらない
3 つ目は特に大きいところです。一件ずつ切り離して見ると軽く見えるものが、並べて初めて「くり返し起きている」と分かります。
記録は三方を守る
記録は従業員を守るためのものですが、守られるのはそれだけではありません。
| 誰を | どう守るか |
|---|---|
| 従業員 | 一人で抱えず、会社の問題として扱われる |
| 会社 | 対応した事実を示せる。配置や体制を変える判断の根拠になる |
| お客様 | 正当な要望まで「カスハラ扱い」されることを防げる |
3 つ目は見落とされがちです。書く形が決まっていないと、受けた人の印象だけで話が進みます。起きたことを書く欄と、感じたことを書く欄を分けておく と、この行き違いが減ります。
その場で残す 6 つの項目
日時・場所・誰が・何を言われたか・どう対応したか・その後、の 6 つが埋まっていれば、後から読んで分かる記録になります。
6 つの項目と書き方
| 項目 | 何を書くか | 書き方のコツ |
|---|---|---|
| 日時 | 起きた日と、おおよその時刻・続いた長さ | 「16 時 10 分頃から 40 分ほど」のように幅で書く |
| 場所 | 受付・現場・電話・メールなど | 電話やメールなら、その手段も場所として書く |
| 誰が | 受けた従業員。同席者がいれば全員 | 相手が分かる場合も、事実の範囲だけ書く |
| 何を言われたか | 言われた言葉。可能な範囲でそのまま | 要約せず、聞こえたとおりに書く |
| どう対応したか | その場で会社側が取った行動 | 誰が代わったか、どこで区切ったかを書く |
| その後 | 上司への報告、次の来店・訪問での扱い | 空欄のままにしない。続いているなら「対応中」と書く |
項目が 6 つで収まっているのには理由があります。項目を増やすほど、忙しい日に書かれなくなるためです。
「何を言われたか」は要約しない
ここだけは、きれいにまとめないでください。「暴言を受けた」と書いてしまうと、後から読む人には何も伝わりません。
- 言われた言葉を、そのままかぎ括弧で書く
- 声の大きさ、くり返された回数など、様子も一言だけ添える
- 書きづらい言葉でも、伏せ字にせずそのまま残す
書いた本人が後から読み返すのは、つらい作業です。だからこそ、その場で一度書いたら、もう書き直さなくてよい形 にしておくことが大事になります。
「その後」を空欄のままにしない
この欄が空いている記録は、途中で止まった記録です。後から見返したときに、対応が続いているのか終わったのかが分かりません。
- 上司に上げた日を書く
- 相手に伝えたことがあれば書く
- 何もしていないなら「対応していない」と正直に書く
「対応していない」と書ける会社のほうが、記録は続きます。書けば責められるという空気があると、その日から記録は止まります。
紙とメモ帳では続かない ─ その場で残せる形にする
紙とメモ帳は書き始めるのは簡単ですが、散らばって後から探せなくなります。
散らばる 3 つの理由
- 保管場所が人によって違う(事務所の引き出し、現場の車、個人のノート)
- 書く項目が決まっていないので、記録ごとに中身がばらばらになる
- 集計できないので、「今年は何件あったか」に誰も答えられない

続くかどうかは「書くまでの手間」で決まる
記録が続くかどうかは、意志の強さではなく手間の少なさで決まります。事務所に戻ってから書く形にすると、忙しい日から順に抜けていきます。
- 受けた直後、その場でスマホから入力できる
- 項目が最初から並んでいて、埋めるだけで終わる
- 写真やメールの画面も、そのまま一緒に残せる
現場が離れている警備業や、受付に人が張り付くクリニック・治療院では、この差がそのまま件数の差になります。

残し方の比較
| 残し方 | 向いているところ | つまずきやすいところ |
|---|---|---|
| 紙の記録簿 | 誰でもすぐ書ける。費用が掛からない | 保管場所が散る。集計できない |
| Excel・スプレッドシート | 集計できる。項目を決めやすい | 現場からは開きにくい。上書きの事故が起きる |
| 専用の仕組み(アプリ) | その場で残せる。まとめて出力できる | 用意する手間と費用が掛かる |
小さな会社なら、まず Excel で項目を決めて、続かないと分かった時点で仕組みを考える、という順番でも遅くありません。大事なのは 項目を先に固定すること です。
月に一度、まとめて見返す
書いただけで誰も見ない記録は、そのうち書かれなくなります。月に一度、5 分でよいので見返す日を決めてください。
- 件数が増えているか、減っているか
- 同じ場所・同じ時間帯に偏っていないか
- 「その後」が空欄のまま止まっている件が残っていないか
見返すと、対策が具体的になります。夕方の受付に集中しているなら人を厚くする、電話が多いなら一次対応の言い回しを決める、といった判断ができるようになります。記録は、集めた後に初めて役に立ちます。
記録の仕組みはホームページの外側
記録そのものはホームページの仕事ではなく、社内の仕組み側の話になります。同じ会社にまとめて頼めるかどうかは、また別の問題です。
LIT STUDIO では、相談の受付と会社の対応を記録して A4 の記録簿にできるアプリ「カスハラ対応記録」を、ホームページとセットでお作りしています。警備業の方は 警備業向けのご案内、クリニック・治療院の方は クリニック・治療院の方へ にまとめています。
社内で相談を受ける窓口をつくる
窓口は「誰に言えばよいか」が一行で分かれば十分で、専用の部署は要りません。
小さな会社での現実的な形
従業員が数人から数十人の会社なら、次の順番で決めていくと無理がありません。
- 受ける人を 2 人決める(できれば、片方は現場の指揮系統から外れた人)
- 連絡の手段を決める(口頭・電話・フォームなど、複数用意する)
- 受けたら誰に上げるかを決める
- 決めた内容を、朝礼か紙 1 枚で全員に伝える
片方を現場の外の人にするのは、直属の上司が関わっている場面では言い出しにくいためです。逃げ道を 1 本だけ用意しておく、という考え方です。
匿名で出せるかどうかが分かれ目
最初の一件は、名前を出さずに相談できるかどうかで出方が変わります。名乗らないと受け付けない形にすると、小さな件は上がってきません。
- 匿名でも受け付ける
- 名前を書いた人の情報は、対応する人の範囲にとどめる
- 相談したことで不利益な扱いをしないと、あらかじめ伝える
相談が少ない会社は、起きていないのではなく、見えていないだけということがあります。
受けた後にすること
相談を受けたら、その日のうちに次の 3 つを返すと、相談した人が宙ぶらりんになりません。
- 受け付けたことを伝える
- 誰が対応するかを伝える
- 次に連絡する区切りを伝える
この 3 つは、解決とは別の話です。解決に時間が掛かっても、受け止めたことだけは早く返せます。返事が無いまま日が過ぎるのが、相談した人にとってはいちばんこたえます。
ホームページで方針を示す ─ 採用にも予防にも効く
方針のページは 1 枚、短い文章で十分です。長い規程をそのまま載せる必要はありません。
何を書けばよいか
- 従業員を守る、という会社の姿勢を一言で
- 著しい迷惑行為があったときの、会社としての対応の考え方
- 相談を受ける窓口が社内にあること
- 大多数のお客様には関係のない話である、という一言
置き場所は、会社概要の下か、採用ページの中が自然です。トップページから探せる場所に 1 本リンクがあれば足ります。
逆に、書かないほうがよいものもあります。実際にあった件の詳しい中身や、相手が誰か分かる書き方です。方針のページは、これまでの出来事を説明する場所ではありません。

採用に効く ─ 求職者は「自分を守ってくれるか」を見ている
求職者にとって、方針の有無は「この会社は自分を守ってくれるか」を判断する材料になります。人と接する仕事ほど、この差が出ます。
待遇や研修の書き方も含めた採用ページ全体の作り方は、中小企業の採用ページの作り方 にまとめています。
お客様への予防になる
あらかじめ方針が書いてあると、ほとんどの人は行き過ぎません。書いていない会社ほど「言えば通るかもしれない」と思われやすくなります。
依頼する側の企業から見ても、従業員を大事にしている会社は安心材料になります。人が定着している会社のほうが、任せたときに困りにくいためです。
業種別の見せ方
| 業種 | 方針を置く場所 | 添えると効く一言 |
|---|---|---|
| 警備業 | 採用ページ・会社概要 | 隊員を現場任せにしない体制であること |
| クリニック・治療院 | 院内案内・スタッフ募集のページ | 診療を続けるためのご協力のお願い |
| 小売・飲食などの接客業 | 会社概要・採用ページ | 従業員も同じように働く人であること |
業種ごとのサイトの作り方は、警備会社のホームページの作り方 と クリニック・治療院のホームページの作り方 に詳しく書いています。
方針の文章がきつくなりすぎない工夫
主語を「従業員」にすると、同じ内容でも角が立ちません。
主語を変えるだけで印象が変わる
| きつく見える書き方 | やわらげた書き方 |
|---|---|
| お客様は◯◯をしてはいけません | 従業員が安心して働けるよう、◯◯へのご協力をお願いしています |
| 悪質な行為には厳正に対処します | 対応が難しいと判断した場合は、サービスのご提供をお断りすることがあります |
| 迷惑行為には法的措置を取ります | 状況に応じて、社内で相談のうえ対応を決めています |
3 行目のように、違法かどうかの断定を書かない ほうが安全です。判断は個々の状況によりますし、書いた側が後から動きづらくなります。
対象を狭く書く
「ほとんどのお客様には当てはまりません」の一言を添えるだけで、読み手の受け取り方が変わります。
- 誰に向けた文章かを、最初の一文で狭める
- 禁止事項を長く並べない(並べるほど、身に覚えのない人が不安になる)
- 最後は日頃のお礼で締める
禁止事項を並べたページは、一見しっかりして見えます。ただ、読むのは大多数の普通のお客様です。読後感で損をしていないかは、一度見直す価値があります。
掲示とホームページで書き分ける
店頭やカウンターに貼る紙と、ホームページの文章は役割が違います。
- 掲示: その場で目に入るもの。短く、1 文か 2 文にする
- ホームページ: 落ち着いて読めるもの。窓口や考え方まで書ける
掲示の文章をそのままホームページに載せると、そっけなく見えます。逆に、ホームページの長い文章をそのまま貼っても、誰も読みません。
まとめ ─ 準備を始めるときの確認リスト
手を付ける順番に迷ったら、次の 6 点から確認してください。
- 何かあったとき、その場で書く場所が決まっているか
- 記録の項目は 6 つ(日時・場所・誰が・何を言われたか・どう対応したか・その後)そろっているか
- 書いた記録が、後から一か所で読み返せるか
- 相談を受ける人が決まっていて、全員がその名前を知っているか
- ホームページに、従業員を守る方針が書いてあるか
- その文章の主語が「従業員」になっているか
制度の要件は、厚生労働省が公開している資料で最新の内容を確認してください。この記事は、その手前にある「現場で何を用意しておくか」をまとめたものです。
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最後に一つだけ。記録は、誰かを責めるために取るものではありません。働く人が明日も同じ場所に立てるように、起きたことを残しておく。それだけのことです。方針の文面から一緒に考えたい場合は、お問い合わせ からご相談ください。
よくある質問
Q.カスハラの記録は、どこまで細かく書けばよいですか?
Q.紙の記録簿ではだめですか?
Q.ホームページに方針を載せると、お客様に構えられませんか?
Q.相談窓口は誰が担当すればよいですか?
Q.義務化の細かい要件はどこで確認できますか?
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